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付録 B 意思決定と必要データの対応表

データは多いほどよいのではありません。この付録は、決めることから必要な証拠を逆算し、取得できない情報があっても判断の大きさを調整するための早見表です。

表をそのまま埋める前に、意思決定者、期限、選択肢、最低条件を決めてください。同じ「新規事業」でも、探索を続ける判断と本格投資の判断では必要な証拠が異なります。

ここでいう「最初に確認するデータ」は、十分性を保証する一式ではなく、最初に確かめる証拠です。損害、不可逆性、金額、証拠の弱さが増すほど確認を厚くします。

3 分で始める

  1. この付録から最も近い意思決定を一つ選ぶ
  2. 結論を変え得る最大の未知を一つ書く
  3. 既存の社内記録、顧客対応、会計、運用ログで確認する
  4. 足りなければ、期限内に得られる観測を一つ決める
  5. 得られない場合に小さくする投資、対象、期間を決める

重大な安全問題、権利侵害、法令上の停止要件がある場合は、通常の比較や追加調査を待たず、権限を持つ人が保護・停止を優先します。

共通の読み方

項目確認すること
決定誰が、いつ、何と何を比べるか
最低条件満たさなければ採用しない条件は何か
重要な不確実性結論を変え得る未知は何か
必要な証拠その未知をどの観測で更新するか
比較基準現状、代替案、無決定とどう比べるか
限界欠測、偏り、定義差、期間差は何か
品質関連性、直接性、代表性、精度、鮮度、独立性に重大な弱点はないか
次の行動追加調査、試行、採用、延期、撤退のどれか

最初からすべてを集めません。少額・短期・可逆な判断では、まず選択を変え得るデータから始めます。金額、不可逆性、顧客・従業員への損害、法令、安全、判断期限が増すほど確認を厚くします。

追加情報は、結論、条件、判断規模のいずれかを変え得る場合に集めます。取得費用と所要時間が、誤判断を避ける価値や判断を小さくできる価値を上回るなら、調査を止めます。結論が合理的な範囲で変わらない、期限に間に合わない、より安い試行で学べる場合も同様です。

品質軸を合計点へまとめると、重大な欠陥が他の長所で隠れます。弱点を軸ごとに示し、同じ一次データを転載した複数記事を独立した証拠として数えません。

予測に役立つ指標が、施策によって動かせる原因とは限りません。予測目的と介入目的を分け、因果を主張する場合は比較、時間順序、代替説明を確認します。

1. 顧客課題を優先する

関連: 第10章第11章

決定例: 次の四半期に、どの顧客群のどの課題へ集中するか。

判断材料最初に確認するデータ判断が大きい場合に加えるデータ主な注意
課題の存在最近の具体的行動と困りごと複数経路の観察、問い合わせ、業務記録要望を課題と同一視しない
重要度放置した結果、現在の代替費用、時間、事故、機会損失発言の強さだけで測らない
頻度直近の発生回数と期間季節性、顧客別分布平均で少数の高頻度層を隠さない
対象範囲該当顧客の概数母集団定義、標本の偏り回答者を市場全体としない
支払い・切替現在払う金銭・手間購買権限、予算時期、解約・切替障壁好意的反応を購買とみなさない
提供可能性現状能力での手動提供品質、安全、支援時間、採算顧客価値と自社採算を分ける

AI の使いどころ: 記録から状況、行動、結果、代替を抽出し、反例や未観測層を探します。顧客の発言を存在しない需要量へ換算させません。

2. 市場へ参入する

関連: 第12章第15章。略語は付録 Aを参照してください。

決定例: どの市場・セグメントへ、どの順序と提供方法で参入するか。

判断材料最初に確認するデータ判断が大きい場合に加えるデータ主な注意
市場定義顧客、課題、地域、期間、提供価値隣接市場との境界、重複既存統計の分類をそのまま使わない
TAM・SAM・SOM単位数 × 価格の下限・基準・上限トップダウンとの照合、獲得能力TAM から一定率を SOM にしない
変化需要を動かす主要因PEST、制度予定、技術代替成長率の期間と名目・実質を揃える
競争顧客が現在選べる代替価格、乗換え、チャネル、反応可能性同業企業だけを競合としない
収益構造価格、主要変動費、獲得経路5 フォース、バリューチェーン市場の大きさと利益を混同しない
参入制約必須能力、法令、初期費用提携条件、撤退費用、学習速度できることと許されることを分ける

AI の使いどころ: 複数資料の定義、基準年、単位を比較し、推計式と欠けた変数を整理します。最新値、法令、競合事実は一次資料で確認します。

3. 解決策・製品案を選ぶ

関連: 第19章第20章

決定例: どの仕組みを試作・開発し、どの案を見送るか。

判断材料最初に確認するデータ判断が大きい場合に加えるデータ主な注意
顧客成果誰の何がどう変わるか行動指標、反対指標、分布機能数を価値としない
代替案異なる仕組み 3 案、現状維持内製、購入、提携、段階案、撤退最初の案だけを精緻化しない
最低条件安全、法令、権利、現金専門レビュー、事故シナリオ高得点で相殺しない
実行可能性必要能力、期間、費用依存関係、保守、移行、廃止試作可能と運用可能を分ける
経済性価格、増分費用、粗利増分 CF、NPV、感度分析埋没費用を採用理由にしない
学習価値次に減らせる不確実性情報価値、可逆性作る量ではなく判断の変化を見る

AI の使いどころ: 異なる仕組みの案、失敗モード、評価基準の重複を出します。存在しない能力や効果を除き、採否は意思決定者が決めます。

4. 実験を開始・継続・停止する

関連: 第21章

決定例: 小規模実験を始めるか、拡大するか、停止・再設計するか。

判断材料最初に確認するデータ判断が大きい場合に加えるデータ主な注意
仮説介入、対象、期待する変化作用の仕組み、異質性成功を後付け定義しない
比較介入前、現状手順、非介入群無作為化、マッチング、時系列同時期の別変化を確認する
指標主指標、反対指標測定誤差、欠測、層別測りやすい代理指標だけにしない
閾値成功、保留、停止の条件許容差、検出力、複数比較小標本を確定証拠としない
運用対象数、期間、責任者逸脱記録、品質、支援能力実施不備と仮説反証を分ける
倫理・安全説明、同意、停止権専門審査、救済、長期影響学習価値で損害を正当化しない

AI の使いどころ: 計画の欠落、交絡候補、停止条件、分析コードを点検します。参加者の権利や停止を自動決定させません。

5. 価格を決める

関連: 第11章第17章

決定例: 誰に、何を単位として、いくらで提供するか。

判断材料最初に確認するデータ判断が大きい場合に加えるデータ主な注意
顧客価値現在の費用・時間・損失成果の分布、代替の総費用自社費用だけで価格を決めない
支払い行動有償試行、契約、更新価格実験、失注理由、購買権限支払意思の回答を行動と同一視しない
競争・代替代替価格と条件値引き、束ね売り、切替費用表示価格だけを比べない
費用変動費、支援時間CAC、固定費配賦、回収期間粗利と営業利益を混同しない
単位利用者、契約、利用量など過剰利用・過少利用の誘因顧客価値と課金単位をずらさない
公平・法令説明可能性、契約条件差別、消費者保護、税最適化だけで扱わない

AI の使いどころ: 価格体系の選択肢、計算、顧客別影響を比較します。最新価格や法的評価は原資料・専門家で確認します。

6. 投資・採用・内外製を決める

関連: 第16章第18章

決定例: 開発、人員、設備、提携へ今いくら投じるか。

判断材料最初に確認するデータ判断が大きい場合に加えるデータ主な注意
増分 CF案ごとの追加流入・流出NPV、税、運転資本、残存価値会計利益だけで決めない
資金制約最低現金、支出時期資金調達条件、低位ケースNPV が正でも資金切れは起こる
能力必要技能と利用時期採用市場、学習、属人性人数を能力と同一視しない
可逆性解約、転用、段階化撤退費用、契約拘束、風評大きな一括判断を当然としない
機会費用失う次善案資源競合、戦略オプション人件費との二重計上を避ける
非財務条件安全、法令、信頼従業員・顧客への長期影響無理に金額へ換算しない

AI の使いどころ: シナリオ別 CF、感度、前提差、計算式を点検します。機密財務情報の入力可否を先に確認します。

7. 提案を承認し、実行へ移す

関連: 第22章第24章

決定例: どの案を、どの条件、責任、期限で実行するか。

判断材料最初に確認するデータ判断が大きい場合に加えるデータ主な注意
推奨結論、理由、主要な代償論証、反対証拠、感度分析量を結論の強さとしない
選択肢推奨、代替、現状維持段階案、撤退案推奨以外を藁人形にしない
実行条件最初の行動、責任者、期限RACI、依存、能力計画作業と完了条件を分ける
統制費用・時間上限、停止条件基準線、変更管理、監査日々の予測で承認値を上書きしない
残る未知未確認事項、確信度追加証拠、再判断日未知を資料末尾へ隠さない
合意決定内容、異論、未解決事項周知、相談、エスカレーション会議の沈黙を同意とみなさない

AI の使いどころ: 読者別の要約、論証の欠落、表と本文の数値不一致、影響箇所を点検します。承認、責任配分、異論の処理は人が行います。

データが得られないとき

不足を推測値で埋めて終わらせず、次の順で対応します。

  1. 定義、所有者、取得期限を確認する
  2. 代替指標が同じ判断を支えるか確認する
  3. 範囲、投資額、対象人数、期間を小さくする
  4. 条件付き承認と再判断日を置く
  5. 最低条件を確認できなければ見送る

AI に欠測値の推定を頼む場合も、観測値と推定値を分け、方法、幅、結論が変わる境界を残します。

最初に確認するデータ票

一票につき一つの意思決定を扱います。最大の未知も最初は一つに絞り、その証拠で判断を更新してから、次に価値の高い未知を選びます。

票の版・更新日時:
決めること:
意思決定者と期限:
選択肢(現状維持を含む):
最低条件:
結論を変える最大の未知:
必要な観測:
比較基準:
取得できない場合に小さくするもの:
次の判断:

各証拠には、定義、期間、単位、情報源、データ所有者、確認日を添えます。データ所有者と内容の正確性を確認する人が異なる場合は、両方を記します。顧客、財務、技術、法務などの確認者を、判断への影響に応じて決めます。

重大な判断では、次も追加します。

証拠品質と限界:
反対証拠:
決定時の期待:
結果を確認する指標:
再判断日:
決定後に変わった前提:

決定後は、期待と実際を同じ定義・期間で比較し、データだけでなく判断の前提と品質を振り返ります。

この対応表の目的は、分析項目を増やすことではありません。選択肢を変えないデータを外し、重要な未知を期限内に減らし、残る不確実性に合わせて判断を小さくすることです。