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第29章 AI機能を設計し、評価する

AI を呼び出して結果を表示できても、業務で使えるとは限りません。AI 機能の設計では、平均的に賢く見えることより、対象業務で許容できる失敗、費用、待ち時間の範囲に収まり、問題時に人が止められることが重要です。

本章の「評価」は、AI が作った文章を確認する付録 E とは異なります。付録 E は調査や提案で AI 出力を利用する人の確認、本章は顧客へ提供する AI 機能そのものの品質判定を扱います。

29.1 最初に AI を使わない案と比べる

AI を使うことが依頼に含まれていても、解決策まで AI に固定しません。次を比較します。

方法向く状況主な弱点
手作業件数が少ない、判断責任が重い、例外が多い時間、属人化、処理量
固定ルール条件と正解が明確で、説明可能性が重要未知の表現や例外に弱い
通常の検索正しい資料を見つければ人が判断できる読解と統合は人が行う
従来型の機械学習分類や予測の正解データがあり、出力形式が固定学習データと専門運用が必要
生成 AI自由文、要約、変換、対話など正解が一つでない事実誤り、出力の揺れ、費用
AI エージェント複数手順を選び、外部の道具を操作する誤操作、権限、連鎖的な失敗

AI を使う理由を、「流行しているから」ではなく、対象業務の入力の揺れ、判断の複雑さ、期待する改善で説明します。固定ルールで同じ価値を安く安全に出せるなら、AI は不要です。

29.2 AI機能の型を見分ける

型によって評価方法と危険が変わります。

  • 生成: 文章、画像、コードを作る。事実性、禁止表現、修正量を見る。
  • 分類: 問い合わせなどを決めた区分へ分ける。見逃しと誤検知を分けて測る。
  • 抽出: 文書から氏名、金額、項目などを取り出す。欠落、取り違え、形式崩れを見る。
  • 検索拡張生成(RAG、ラグ): 検索した社内文書などを根拠に回答を生成する。検索できたかと、根拠どおり答えたかを分けて測る。
  • 推薦: 利用者に候補を並べる。選択率だけでなく、偏り、多様性、不適切な推薦を見る。
  • エージェント: AI が手順を選び、API(システム同士が情報や処理をやり取りする接続口)や画面を操作する。権限、確認、重複実行、取消しを重く見る。

一つの機能に複数の型が含まれる場合は、工程に分けます。社内文書への質問応答なら、検索、回答生成、根拠表示を別々に評価してから全体を試します。

29.3 業務、入力、出力、人の関与を一枚にする

モデルやプロンプトを選ぶ前に、次を書きます。

利用者と利用場面:
現在の作業と困りごと:
AIへ渡す入力:
AIが返す出力:
出力後に人がすること:
AIがしてはいけないこと:
正しい、役立つと判断する条件:
失敗した場合の影響:
人へ戻す条件:
記録するログ:

「人が確認する」と書くだけでは不十分です。誰が、いつ、何を見て、どの基準で承認し、確認できないときにどうするかを決めます。大量処理で全件確認できないなら、標本確認、危険な事例の自動振分け、利用範囲の縮小を設計します。

29.4 失敗を先に分類する

平均点だけでは重大な事故を隠します。対象業務に合わせ、少なくとも次を検討します。

  • 根拠にない内容を事実のように作る
  • 必要な情報を落とす、別人・別案件を混ぜる
  • 禁止された個人情報や機密情報を出す
  • 差別的、有害、法令・契約に反する表現を出す
  • 指示文を文書中に埋めて AI の動作を変える攻撃を受ける
  • 権限のないデータを検索・表示する
  • 同じ処理を重複実行する、取消不能な操作を行う
  • 自信のない出力を断定する
  • 出力形式が壊れ、後続システムを停止させる
  • 利用量増加で費用や待ち時間が上限を超える

影響の大きさと発生しやすさから重大度を決めます。平均品質が高くても、重大事故が一件あれば公開しない設計もあります。

29.5 固定した評価データを作る

評価データは、AI 機能へ入力し、期待する結果や採点基準と照合するための問題集です。開発中に都合のよい例だけ試すと、改善したか比較できません。

評価データには次を含めます。

  • 日常的で件数の多い代表例
  • 境界や例外に当たる難しい例
  • 空欄、誤字、長文、複数言語など入力品質が悪い例
  • 個人情報、機密、攻撃的指示を含む安全確認例
  • 答えるべきでない、または人へ戻すべき例
  • 事業上の損失が大きい重要例

実データを使う場合は、利用目的、権限、匿名化、保存期間を確認します。実データが使えない初期段階では、現場の専門家と架空例を作り、本番後に許可された実例へ更新します。

開発中に見る調整用データと、最後の判定にだけ使う確認用データを分けます。同じ問題を見ながらプロンプトを直し続けると、その問題だけに合う状態になるためです。

29.6 品質、費用、速度、安全性を同時に測る

指標は機能の型に合わせます。

観点指標の例
品質正答率、必要項目の充足、根拠との一致、人の修正率、業務完了率
見逃しと誤検知本来拾うべきものを拾えた割合、拾ったもののうち正しかった割合
速度中央の応答時間、遅い上位5%の応答時間、タイムアウト率
費用1件当たり費用、月間想定費用、人の確認を含む総費用
安全性重大事故件数、権限外表示、禁止出力、人への切替成功率
利用価値採用率、修正時間、完了時間、再利用、継続利用、苦情

平均値だけでなく、顧客区分、文書種類、入力長、言語など重要な区分ごとに見ます。全体では合格でも、特定顧客だけ著しく悪いことがあります。

品質向上のためモデルを大きくすると、費用や待ち時間が悪化します。単一の点数で隠さず、公開に必要な下限と上限をそれぞれ決めます。

29.7 人による評価を再現可能にする

生成文の良し悪しは、正解が一つでないため人が採点する場合があります。評価者ごとに感覚が変わらないよう、評価基準と具体例を作ります。

正確さ 0: 根拠と矛盾、1: 重要な不足、2: 軽微な不足、3: 根拠どおり
完全さ 0: 目的を満たさない、1: 主要項目欠落、2: 一部欠落、3: 必要項目を満たす
実用性 0: 使用不可、1: 大幅修正、2: 軽微修正、3: そのまま使用可能
安全性 合格・不合格: 禁止情報、危険な助言、権限違反がない

最初の一部は複数人で採点し、食い違う理由を話して基準を直します。別の AI に採点させる方法は、大量の一次評価を補助できますが、その採点 AI にも偏りや見落としがあります。人が採点した例との一致を確認し、重大な公開判断を AI の採点だけに任せません。

29.8 検索拡張生成では検索と回答を分けて調べる

検索拡張生成では、回答が悪い原因が、資料を見つけられなかったのか、見つけた資料を誤読したのかで対策が違います。

確認する項目は次のとおりです。

  • 正しい資料が検索候補へ入ったか
  • 文書を分ける単位が細かすぎたり大きすぎたりしないか
  • 更新済み資料が検索対象になり、古い資料が除かれるか
  • 利用者の権限を越えた資料が検索されないか
  • 回答の各主張が表示された根拠に支えられているか
  • 根拠がないときに「分からない」と返せるか

引用を表示するだけでは安全になりません。引用先が主張を本当に支えているかを評価します。

29.9 エージェントには最小権限と確認点を置く

外部システムを操作する AI には、会話だけする AI より厳しい制御が必要です。

  • 読取り、下書き、実行の権限を分ける
  • 削除、送信、購入、公開など戻しにくい操作の前に人へ確認する
  • 同じ依頼が再送されても重複処理しない仕組みを持つ
  • 操作対象、引数、実行者、時刻、結果を監査ログに残す
  • 回数、金額、対象範囲、実行時間に上限を置く
  • 失敗時に途中状態を確認し、取消しまたは補償処理を行えるようにする
  • 外部文書中の命令を、正規の指示として実行しない

本番環境の広い権限を最初から渡さず、読取り専用、テスト環境、限定顧客、少額操作の順に広げます。

29.10 変更のたびに同じ評価を行う

AI 機能は、コードを変えなくても、モデル提供者の更新、検索文書の追加、プロンプト変更で品質が変わります。次を版として記録します。

  • モデルと提供者
  • システム指示とプロンプト
  • 検索設定と参照資料の版
  • 前処理・後処理コード
  • 安全設定
  • 評価データと採点基準

変更前後で固定評価を実行し、良くなった例と悪くなった例を確認します。品質、費用、速度、安全性のいずれかが公開条件を外れたら、以前の版へ戻すか、対象範囲を狭めます。

29.11 公開判定と公開後の監視をつなぐ

公開会議では、次を一枚にします。

対象利用者と提供範囲:
評価データと結果:
合格基準を満たした項目:
例外承認した項目と責任者:
既知の限界と利用者への説明:
人へ戻す条件:
監視する指標と警報値:
停止権限者と連絡先:
以前の版へ戻す手順:
次回評価日:

公開後は、利用率だけでなく、修正、棄却、苦情、重大な誤り、費用、待ち時間、人への切替を見ます。失敗例を評価データへ追加します。ただし、利用者の入力を無断で学習・評価へ転用しません。

考えてみる問い

検討中の AI 機能について、固定ルールや手作業より AI が適する理由を書いてください。次に、絶対に許容できない失敗を三つ、公開前に測る指標を四つ、公開を止める条件を一つ決めてください。

AI 機能の品質は、モデル名だけでは決まりません。対象業務、入力データ、検索、指示、人の確認、権限、運用を含む仕組み全体を、同じ条件で繰り返し測って初めて判断できます。実務では付録 I と付録 J を使います。