Keyboard shortcuts

Press or to navigate between chapters

Press S or / to search in the book

Press ? to show this help

Press Esc to hide this help

第28章 外部支援の契約と境界を設計する

外部からプロジェクトへ入るとき、最初の成果物はモックや提案書ではありません。何を決める支援で、誰が何に責任を持ち、どこまでできれば完了なのかという合意です。ここが曖昧だと、追加依頼が際限なく入り、外部支援者が社内の意思決定まで背負い、最後には「期待した成果ではない」という食い違いが起きます。

契約書の作成や法的判断は、法務担当者や弁護士の仕事です。本章では、その前段として、現場と依頼者が確認すべき仕事の設計を扱います。

28.1 依頼を受ける前に適合性を確認する

売上機会があることと、受けるべき案件であることは同じではありません。最初の面談では、解決策を売り込む前に次を確認します。

  • 誰が、いつまでに、何を決めたいのか
  • 成功すると誰の行動や数字が変わるのか
  • 顧客や利用者へ接触できるか
  • 必要なデータ、既存システム、担当者へアクセスできるか
  • 予算所有者と最終意思決定者は誰か
  • AI を使うことについて社内規程や契約上の制限があるか
  • 依頼側が担う作業と時間を確保できるか
  • 中止または見直しを判断する日はいつか

情報が足りない場合は、事業化を約束せず「二週間で現状、顧客証拠、実行条件を確認し、次段階へ進むかを決める」といった診断段階を提案します。

受けない判断も必要です。目的が違法・有害である、顧客への接触もデータ確認も許されない、結論が先に決まっている、責任だけを外部へ移そうとしている場合は、その条件を変えられない限り受注しません。

28.2 作業ではなく意思決定と成果物を合意する

「ヒアリング支援」「AI 活用検討」だけでは完了を判定できません。次の単位で書きます。

対象となる意思決定:
意思決定者:
支援期間:
外部支援者が行うこと:
依頼側が行うこと:
成果物:
検収条件:
対象外:
前提・依存関係:
変更方法:
支援終了時に移すもの:

成果物の完成と、事業成果を分けます。外部支援者は、合意した調査、設計、実験を適切に行う責任を持てますが、市場の反応や顧客の購入を保証はできません。反対に「結果は不確実だから何も約束しない」のでもなく、調査件数、対象条件、評価方法、判断会議、記録形式など、自分で管理できる品質を明記します。

28.3 検収条件を観察可能にする

検収とは、発注者が成果物を合意した条件に達したと確認することです。「良い提案」「使いやすい画面」のような表現だけでは、双方が別の完成像を持ちます。

成果物弱い条件観察可能な条件
ヒアリング報告主要顧客へ聞く合意した条件の5社へ実施し、発言、解釈、反証、未確認事項を記録する
モック動くものを作る合意した一経路を操作でき、評価会で観察する課題と記録方法がある
AI 機能精度を高める固定評価データで合意指標を測り、重大事故が0件、費用と待ち時間が上限内である
体制案下半期案を出す最小・推奨・加速の三案に成果、役割、稼働、費用、危険、開始日がある

件数や画面数だけを検収条件にせず、その成果物がどの判断に使えるかを含めます。

28.4 追加依頼を拒否ではなく変更判断にする

案件中に新しい情報が出れば、範囲が変わるのは自然です。口頭で引き受け続けることも、契約外だからと即座に退けることも避け、変更依頼として扱います。

  1. 依頼内容と必要になった理由を記録する
  2. 当初の意思決定に必要か、別の目的かを確認する
  3. 工数、費用、期限、品質、他作業への影響を示す
  4. 追加する、既存作業と入れ替える、次段階へ送る、行わない、から選ぶ
  5. 依頼者と承認者を記録する

小さな変更を扱う予備枠を決めてもかまいません。ただし、予備枠を使った記録は残します。付録 K に、範囲と変更を一枚で管理する形式があります。

28.5 データ、AI、知的財産の扱いを先に決める

AI 案件では、次を開始前に法務、情報管理、依頼者と確認します。

  • 顧客データ、個人情報、機密情報をどの環境へ入力できるか
  • 入力と出力が保存・学習利用されるか
  • 外部サービスと再委託先は何か
  • データの保管場所、期間、削除方法、アクセス記録
  • 既存資料、生成物、コード、プロンプト、評価データの権利
  • オープンソースや第三者素材の利用条件
  • 成果物を他案件の知見として再利用できる範囲
  • 事故時の連絡先、停止権限、調査への協力

「AI が作ったから権利問題はない」とは扱いません。利用するサービスの条件と、入力資料・生成物・組み込む素材を個別に確認します。

28.6 社内責任を外部者が奪わない

外部支援者が資料作成と会議進行を担うと、いつの間にか意思決定者に見えることがあります。次の責任を明示します。

役割主な責任
事業責任者目的、予算、継続・中止、顧客への約束
プロダクト責任者優先順位、対象利用者、提供範囲
技術責任者構成、品質、セキュリティ、運用可能性
現場責任者業務手順、人の確認、例外対応
外部支援者合意した調査・設計・制作、論点と証拠の可視化、引継ぎ

外部支援者は提案し、異議を述べ、危険を記録します。しかし、権限のない承認を代行しません。

28.7 終了とアクセス解除までが仕事である

終了時には、納品ファイルだけでなく、次を移します。

  • 最新の判断、根拠、未解決事項、既知の危険
  • ソースコード、設計、データ定義、評価データ、実行手順
  • 利用中のサービス、費用、契約更新日、管理者
  • 監視、問い合わせ、事故対応、停止・復旧手順
  • 顧客との約束と次回連絡
  • 外部アカウント、鍵、共有リンク、端末の解除・削除記録

共同実施、相手主導、相手だけで実施という順で移し、最後に担当者が実際に操作できるか確認します。

考えてみる問い

今受けようとしている依頼について、成果物ではなく「誰のどの意思決定を助けるか」を一文にしてください。次に、対象外、依頼側の作業、検収条件、変更承認者、終了時に移すものを書いてください。

外部支援の境界は、責任を避けるための壁ではありません。依頼側と支援側が、必要な責任を引き受け、変化が起きたときに話し直せるようにする設計です。