第13章 市場の大きさと変化を読む
第12章では、他部署の管理者承認が必要な設定担当者へ、非同期の権限依頼支援を試す案を選びました。20 社で価値を確かめるだけなら、小さなチームでも始められます。しかし、専用機能を開発し、人を採用し、販売へ投資するには、試行の先にどれほどの機会があるかを考える必要があります。
ここで「この市場は 1,000 億円ある」という調査会社の数字を見つけても、投資判断はできません。その数字に、今回の顧客がどれほど含まれるか、自社が届けられるか、何年の数字か、売上になるまでに何が必要かが分からないからです。
市場規模は、どこかに存在する一つの正解ではありません。対象、価値、単位、期間、価格、到達方法という前提から作る推計です。
TAM(総需要機会)、SAM(提供条件を満たす市場)、SOM(能力と資金の範囲で獲得を目指せる市場)は、市場を大きく見せるための数字ではありません。投資範囲を段階的に定め、検証すべき前提を見つけるために使います。PEST も外部要因の一覧ではなく、その前提が時間とともにどう変わるかを考えるために使います。
今回の企業、顧客数、価格、比率は方法を説明するための仮想例です。予測値ではなく、計算と判断のつながりを見るための仮定です。
13.1 市場規模の前に投資判断を置く
「市場規模を調べてください」だけでは、必要な精度も範囲も決まりません。新機能へ 2 週間使う判断と、10 人を採用する判断では、必要な証拠が違います。
今回の意思決定を、3 段階に分けます。
| 段階 | 決めること | 必要な見通し |
|---|---|---|
| 試行 | 20 社へ 4 週間の支援を行うか | 対象へ到達でき、学べるか |
| 初期提供 | 既存顧客 100 社へ広げるか | 利用、成果、工数、粗い収益性 |
| 事業投資 | 専用機能、採用、販売へ投資するか | 到達可能な顧客数、単価、獲得速度、継続性 |
市場規模が直接必要なのは、主に 3 段階目です。試行前に世界全体の市場を精密に推計しても、対象者が支援を使うかは分かりません。反対に、工数の大きな開発や採用を決めるのに、20 社の反応だけでは足りません。
最初に、次を明記します。
- どの投資を、いつ決めるのか
- どの顧客の、どの課題に対する市場か
- 顧客数、利用件数、年間支出、売上のどれを測るのか
- 何年時点、どの地域、どの通貨・税区分で比べるのか
- どの前提が変わると、選択が変わるのか
本章では、2026 年 8 月時点の仮定を使い、2027 年度に専用機能へ投資するかを考えます。市場の単位は税抜円による年間売上機会、地域は日本、対象は法人向け業務 SaaS の初期設定支援とします。数えるのは、1 年間に発生する新規導入案件です。同じ企業の更新は含めず、別製品の新規導入は別案件として数えます。
本章では、次の言葉を区別します。
| 用語 | 本章での意味 |
|---|---|
| 対象数 | 定義した条件に当てはまる企業・導入案件の数 |
| 支払意思 | 価値に対して払ってもよいと考える金額。取引価格ではない |
| 想定価格 | 提供者が試す料金。購入率と組み合わせて検証する仮説 |
| 年間売上機会 | 対象数と想定価格などから作る、定義付きの推計 |
| 売上計画 | 期間内の到達、契約、供給能力を含む実行計画 |
仮に専用機能の初期投資を 600 万円、初年度の追加運用費を 240 万円とするなら、年間売上 432 万円だけでは初年度に回収できません。この粗い条件を先に置くと、「市場があるか」ではなく、「どの売上・期間・学習なら段階投資に値するか」を問えます。厳密な採算と投資評価は第 5 部で扱います。
13.2 TAM、SAM、SOM は異なる制約を答える
TAM(総需要機会)、SAM(提供条件を満たす市場)、SOM(能力と資金の範囲で獲得を目指せる市場)は、3 つの同心円として紹介されることがあります。しかし、重要なのは円の大小ではなく、各段階で何の制約を加えたかです。
| 区分 | 本章での定義 | 答える問い |
|---|---|---|
| TAM | 同じ課題を持つ対象すべてが、想定価格で購入する上限仮定の年間機会 | 課題と解決の範囲には、理論上どれほどの余地があるか |
| SAM | 地域、制度、製品、提供能力などの条件を満たし、現在の事業モデルで提供可能な年間機会 | 今の提供条件で、どこまでを狙えるか |
| SOM | 定めた期間内に、販売能力、競争、移行速度を踏まえて現実に獲得し得る年間売上 | 今回の計画で、どこまで到達できるか |
用語の定義には資料や組織による差があります。とくに SOM を「獲得可能市場」とする場合と「予測売上」に近く扱う場合があります。略語だけで合意せず、この案件で加える制約と単位を表に残します。
TAM は「世界中の SaaS 売上」ではありません。今回の価値と無関係な支出を含めると、数字は大きくなっても判断との距離が広がります。
今回なら、次のように境界を置けます。
TAM:
初期設定で他部署の承認を必要とする国内の法人 SaaS 新規導入件数
× 1 件あたりの想定価格
SAM:
TAM のうち、自社製品の対象業務・企業規模・安全要件に適合し、
現在の販売・支援方式で提供できる範囲
SOM:
SAM のうち、2027 年度に識別し、接触し、契約し、
提供能力の上限内で支援できる範囲
TAM から SOM へ一律に「10%、その 10%」と縮めてはいけません。地域、適合、到達、契約、供給能力という別々の制約を、一つずつ根拠へ結びます。
13.3 トップダウンは境界を見つける
トップダウン推計は、広い統計や業界資料から、対象条件を順に絞る方法です。公的統計や信頼できる業界調査を使えば、桁や上限を短時間で確認できます。
仮に、次の資料が得られたとします。
| 段階 | 入力 | 適用率 | 計算後 |
|---|---|---|---|
| 国内の対象規模の法人 | 500,000 社 | ― | 500,000 社 |
| 年内に対象カテゴリの SaaS を新規導入 | 500,000 社 | 8% | 40,000 件 |
| 他部署の管理者承認が必要 | 40,000 件 | 30% | 12,000 件 |
| 想定する安全・業務条件に適合 | 12,000 件 | 50% | 6,000 件 |
1 件あたり 60,000 円の想定価格を仮定すれば、最後の 6,000 件は税抜年額 3.6 億円です。ただし、この数字は事実ではありません。複数の仮定を掛けた結果です。顧客が感じる価値や表明した支払意思とも、実現売上とも区別します。
トップダウンでは、各段階の意味を確認します。
- 「法人数」は事業所数やアカウント数と同じか
- 「SaaS 導入」は新規契約か、既存契約を含むか
- 30% は観測値か、少数インタビューからの仮説か
- 価格は現在の支出、表明した支払意思、将来の料金のどれか
- 同じ母集団・地域・期間の比率を掛けているか
異なる調査の比率を掛け合わせるときは、母集団の違いが誤差になります。大企業を中心にした導入率を、中小企業を含む法人数へ掛ければ、対象を過大に見積もるかもしれません。
トップダウンは、詳細が分からない初期に上限と桁を知るのに向きます。一方、販売経路、獲得速度、提供上限を直接は示しません。SOM を作るには、現場から積み上げる必要があります。
13.4 ボトムアップは事業の仕組みを試す
ボトムアップ推計は、実際に識別・接触・契約・提供できる単位から積み上げます。
今回の 2027 年度計画を仮置きします。
| 要素 | 仮定 | 根拠の状態 |
|---|---|---|
| 対象条件を判定できる既存・新規顧客 | 1,200 社 | CRM から集計可能 |
| 対象条件への適合率 | 25% | 20 社の試行前仮説 |
| 案内到達率 | 80% | 既存メール実績から暫定 |
| 有料購入率 | 30% | 未実測 |
| 年間単価 | 60,000 円 | 仮の価格 |
計算は次のとおりです。
1,200 社 × 25% × 80% × 30% = 72 社
72 社 × 60,000 円 = 年間 4,320,000 円
ここで終えると、販売側だけを見た数字です。提供能力も確認します。
担当者が使える時間: 週 20 時間 × 48 週 = 960 時間
1 社あたり初期支援: 4 時間
理論上の上限: 240 社
通常業務と例外のため 50% を確保: 計画上限 120 社
需要側の 72 社(計画上は約 70 社)は、計画上限 120 社を下回ります。この仮定では供給能力より、有料購入率が制約です。SOM の件数は、需要から見込む件数と、品質を保って供給できる件数の小さい方です。仮に購入希望が 180 社へ増えても、現状の SOM は 120 社で頭打ちになります。売上予測だけを上げず、対象制限、自動化、価格、採用、提携を選ぶ必要があります。
この式は既存の顧客接点を使う基準計画です。新規参入や新しい販売経路では、次の段階が加わります。
到達可能な見込み客 × 接触率 × 商談化率 × 契約率
× 提供可能率 × 想定価格
広告、紹介、販売パートナーなど経路ごとに、件数、期間、獲得費用、対象の適合率が違います。獲得費用は上の件数式とは別に採算へ反映します。SAM が大きくても、新しい経路を作る投資と時間を置かなければ初年度 SOM には入りません。
ボトムアップの利点は、数字が事業活動へつながることです。弱い仮定が分かれば、試行で観測できます。欠点は、現在の販売経路や提供方法に引っ張られ、将来の新しい経路を過小評価しやすいことです。
13.5 二つの推計が一致しない理由を調べる
トップダウンとボトムアップは、一致させるための二方式ではありません。差を手掛かりに、境界、到達方法、時間軸、能力のどこに問題があるかを調べます。
今回の仮定では、トップダウンの SAM は 6,000 社、ボトムアップの初年度 SOM は 72 社です。約 1.2% しか獲得しないから悲観的、とは限りません。SAM は提供可能な範囲、SOM は 1 年以内に到達する計画だからです。
| 差の理由 | 確認すること |
|---|---|
| 対象定義 | 6,000 社と 1,200 社は同じ企業規模・課題か |
| 時間 | SAM は年間発生か累積社数か、SOM は何か月分か |
| 到達 | 対象を識別できるデータと販売経路があるか |
| 転換 | 案内、試用、有料化のどこで減るか |
| 供給 | 契約後に品質を保って支援できるか |
| 単位 | 企業、契約、導入案件、利用者を混ぜていないか |
推計が大きく違うときに平均を取ると、理由が消えます。定義を揃え、それでも残る差を、未知の仮定として記録します。
13.6 市場規模の数字が作られる過程を残す
市場規模には、元の観測値と推計者の判断が混ざります。「市場は 3.6 億円」とだけ書くと、再計算も更新もできません。
推計表には、少なくとも次を残します。
| 項目 | 記録する内容 |
|---|---|
| 指標 | 法人数、導入件数、契約数、年間売上など |
| 定義・単位 | 何を 1 件と数え、税・通貨をどう扱うか |
| 対象 | 地域、業種、規模、課題、除外条件 |
| 時点・期間 | 基準日、観測期間、予測期間 |
| 数値 | 点推定だけでなく範囲も残す |
| 出典 | 原資料、表番号、URL、取得日 |
| 計算 | 絞り込み、換算、式、丸め方 |
| 状態 | 観測、外部推計、代理指標、仮定の区別 |
| 責任 | 更新者、承認者、次の確認日 |
市場調査会社の数字も、そのまま事実扱いしません。調査対象、定義、推計方法、基準年、予測方法が公開されているかを確認します。詳細が有料で見えない場合、確認できたのは要約の数字だけです。重要な投資を、その数字だけへ依存させません。
成長率にも注意が必要です。前年 1 億円から 2 億円になれば 100% 成長ですが、絶対額は 1 億円増です。複数年の年平均成長率は開始年と終了年を滑らかにつなぐため、途中の急増・減少を隠します。過去の成長率を、そのまま将来へ延長しないようにします。
13.7 PEST は外部要因を前提の変化へつなぐ
PEST は、Political(政治)、Economic(経済)、Social(社会)、Technological(技術)の観点で外部環境を見る方法です。各欄へニュースを貼るだけでは、意思決定につながりません。
外部の出来事を、影響の経路、変わる仮定、観測指標、対応へつなぎます。
| 外部変化の仮説 | 正負の影響経路 | 変わる市場仮定 |
|---|---|---|
| 権限管理の規則が厳格化 | 外部支援へ渡せる情報は減るが、安全な仕組みの需要は増え得る | 適合率、購入率 |
| 人件費が上昇 | 手作業費は増えるが、予算削減や内製化も起こり得る | 価格受容、購入率 |
| 非同期業務が定着 | 同期面談を避ける顧客が増える | 購入率、対象数 |
| SaaS の管理 API(ソフトウェア同士が機能やデータをやり取りする接点)が普及 | 承認状態を自動確認しやすくなる | 支援原価、供給上限 |
| 外部変化 | 先行して見る指標 | 対応候補 |
|---|---|---|
| 規則の厳格化 | 顧客の安全審査、契約条件 | 収集情報を減らす、顧客内完結 |
| 人件費の上昇 | 担当工数、予算、内製化 | 時間削減と予算を測る |
| 非同期業務の定着 | 面談拒否、非同期選択率 | 非同期を初期導線にする |
| 管理 API の普及 | API 対応率、連携工数 | 製品化か提携を比較 |
この表は将来を当てる予言ではありません。「規則が厳格化する」も現時点では仮説です。重要なのは、起きた場合にどの計算セルが変わり、どの判断を見直すかです。外部変化から結果までに時間差がある場合は、規則の公布、顧客審査の変更、契約条件の変更、利用率の変化を順に観測します。
外部変化には正負の両方があります。規則の厳格化は外部支援を難しくする一方、安全に配慮した仕組みへの需要を高める可能性があります。一方向の物語へ決めつけず、反対の経路も置きます。
PEST を広く行う価値があるのは、投資期間が長い、外部環境への依存が大きい、過去の実績を将来へ延長しにくい場合です。4 週間の文言変更のように、小さく取り消せる判断なら、重大な制度・安全制約だけを確認すれば十分です。
事業責任者が四半期ごとに仮説を見直し、規則、主要 API、顧客の安全審査に重大な変更があれば期中でも更新します。ニュースの件数ではなく、計算前提か対応を変える事象を記録します。
13.8 点予測を感度分析へ変える
市場推計は、前提を変えると結果も変わります。感度分析は、一つまたは少数の入力を変え、結果への影響を調べる方法です。シナリオ分析は、同時に起こり得る複数の前提を、内部で整合する一つの状況として組み合わせます。前者で影響の大きい変数を見つけ、後者で変数同士の関係や対応を考えます。
初年度 SOM の式を使います。
年間売上 = 判定可能顧客数 × 適合率 × 到達率 × 有料購入率 × 年間単価
単一の楽観・基準・悲観シナリオだけでは、どの前提が結果を動かしたか分かりにくくなります。まず、一つずつ変えます。
| 変える前提 | 低位 | 基準 | 高位 | 年間売上の範囲 |
|---|---|---|---|---|
| 適合率 | 15% | 25% | 35% | 259 万~605 万円 |
| 到達率 | 50% | 80% | 90% | 270 万~486 万円 |
| 有料購入率 | 10% | 30% | 50% | 144 万~720 万円 |
| 年間単価 | 30,000 円 | 60,000 円 | 90,000 円 | 216 万~648 万円 |
他の値を基準に固定し、万円未満を丸めた仮想計算です。基準値は税抜年額 432 万円です。最も幅が大きいのは有料購入率です。したがって、法人数をさらに精密にするより、試行で利用と購入を分けて確かめる方が、今回の判断価値は高いと分かります。
工数も同時に見ます。1 社あたり 4 時間なら計画上限は 120 社ですが、例外が増えて平均 8 時間になれば 60 社です。購入希望が 72 社でも 12 社分は提供できません。購入率の上昇が売上へ直線的につながるのは、供給能力に余裕がある範囲だけです。
前提同士が連動する場合は、一つずつ変えるだけでは足りません。価格を上げると有料購入率が下がる、対象を広げると適合率や支援品質が下がる、といった関係をシナリオで確認します。
本章では各前提へ確率を割り当てた期待値までは扱いません。確率を置けるだけの反復データがない段階では、範囲、境界、シナリオを使い、判断が変わる条件を明示します。
| シナリオ | 対象 | 単価 | 利用 | 提供 | 判断への意味 |
|---|---|---|---|---|---|
| 限定・高支援 | 狭い | 高い | 低~中 | 人手中心 | 少数で経済性を確かめる |
| 標準 | 現在の条件 | 中 | 中 | 人と機能 | 初年度の基準計画 |
| 広域・低支援 | 広い | 低い | 高い想定 | 自動化中心 | 開発前に品質と転換を検証 |
感度分析の目的は、幅を付けて予測を安全に見せることではありません。結果を動かす前提を特定し、追加調査、実験、契約、段階投資のどれで不確実性を扱うか決めることです。
13.9 AI には計算と反証を任せ、前提を決めさせない
AI は、式の展開、単位の統一、複数ケースの再計算、欠けた前提の指摘に使えます。一方、「この市場の TAM を出して」と頼むだけでは、異なる定義の数字をつないだり、根拠のない比率を補ったりする危険があります。
入力には、意思決定、定義、数値、出典、確度を含めます。
意思決定:
2027 年度に初期設定支援の専用機能へ投資するか。
固定する定義:
- 単位は国内の年間売上機会、税抜円
- 顧客は他部署の管理者承認が必要な法人
- SOM は 2027 年度内に識別、接触、契約、提供できる範囲
入力表:
各変数について、値、単位、対象期間、出典、
観測/外部推計/代理指標/仮定の区分を付ける。
依頼:
1. TAM、SAM、SOM の各計算式を示す
2. 単位、母集団、期間の不一致を指摘する
3. 数値を補わず、不足は未確認と記す
4. 各変数を一つずつ動かした感度分析を行う
5. 前提の連動を含む反対シナリオを 2 つ作る
6. 選択を変えやすい前提と、安く確かめる方法を示す
7. すべての計算を再現可能な表として出す
AI の計算結果は、表計算や短いスクリプトで再計算します。特に割合、複利、通貨換算、桁、期間の扱いを確認します。AI が示した統計や市場資料は、存在、本文、定義、日付を原資料で確かめます。
AI は、前提を置いた責任を負いません。市場の境界、価格、獲得可能性、投資上限を決めるのは、その資源と結果に責任を持つ人間です。
13.10 数字ではなく投資条件を結論にする
市場分析の成果物は、大きな TAM のスライドではありません。どこまで投資し、何を確かめ、どの条件なら拡大・変更・中止するかです。
今回の仮想例なら、次のようにまとめます。
| 項目 | 判断 |
|---|---|
| 現時点 | 20 社の試行は行う。専用機能への本投資はまだ決めない |
| 理由 | 対象課題はあるが、有料購入率と 1 社あたり工数が未実測 |
| 初期提供 | 100 社へ案内し、購入と提供の実績を確認する |
| 主要な不確実性 | 適合率、有料購入率、単価と購入の関係、例外工数 |
| 拡大条件 | 100 社への案内で購入・工数を確認し、初期投資 600 万円の回収可能性を再計算できる |
| 変更条件 | 価値はあるが工数超過なら対象、価格、自動化、提携を比較する |
| 中止条件 | 対象へ到達できない、支払われない、安全に提供できない、期限・投資上限を超える |
| 再確認 | 試行終了時、初期提供 3 か月後、重大な制度・技術変化時 |
20 社は価値と運用を学ぶ試行対象、100 社は次に案内する母集団、1,200 社は年間に対象条件を判定できる母集団です。100 社すべてが購入するという意味ではありません。
無料試行の好意的な発言を、有料購入の証拠にはしません。課題の発言、無料利用、具体的な価格提示への反応、発注手続き、有料契約、更新では、確かめている仮説が違います。購入仮説については、顧客が行動し、時間・費用・組織上の負担を引き受けるほど証拠が強くなります。更新は継続価値の証拠ですが、課題の原因を単独で証明するものではありません。
試行では価格を提示し、購入しない理由も記録します。価格を変えれば購入率、対象顧客、支援要求も変わるため、独立した数字として扱いません。限られた期間に複数経路や価格を同時に動かしすぎず、その段階で選択を最も変える未知を一つ定めます。
毎月見る先行指標は、対象判定数、案内到達率、価格提示後の購入率、1 社あたり工数、重大な安全・品質問題です。対象が少ないなら市場境界、到達しないなら経路、購入されないなら価値・価格、工数超過なら提供方法を見直します。現在の経路で届かないことと、市場自体が存在しないことを混同しません。
市場が大きくても、自社が対象を識別できず、届けられなければ、今回の SOM は小さいままです。市場が小さく見えても、高い価値を少数へ継続して提供できれば、投資に値する場合があります。
考えてみる問い
最近見た市場規模の数字を一つ選び、その数字の対象、単位、期間、計算、出典を書いてください。次に、その数字が 2 倍または半分なら、自分の意思決定が本当に変わるかを考えてください。変わらないなら、先に確かめるべき前提は何でしょうか。
TAM、SAM、SOM を使うとは、巨大な円を描くことではありません。課題の範囲、提供条件、到達速度、供給能力を分け、投資を段階化することです。PEST と感度分析を加えると、外部変化や誤差に対して、どの前提を監視し、どこで判断を改めるかが見えます。
第14章では、市場の中で利益と交渉力がどこへ集まり、競争圧力がどう変わるかを扱います。市場規模が大きいことと、自社が価値を得られることは同じではありません。5 フォースとバリューチェーンを使い、競争と価値の構造へ進みます。
参考資料
最終確認日: 2026 年 7 月 15 日。本章の TAM、SAM、SOM の制約表、推計記録、PEST の影響経路、AI 検証手順は、以下の資料を踏まえた本書独自の整理です。
- U.S. Small Business Administration ― Market research and competitive analysis ― 市場規模、需要、価格、飽和度など、市場調査で確認する基本項目を参照
- 総務省統計局 ― 政府統計の総合窓口 e-Stat ― 日本の公的統計を検索し、統計表の定義・対象・時点へ遡る入口として参照
- HM Treasury ― The Green Book ― 不確実性、感度分析、シナリオ分析を意思決定へ組み込む考え方を参照
- Francis J. Aguilar『Scanning the Business Environment』Macmillan、1967 年 ― 後に PEST などとして整理される外部環境走査の歴史的背景を確認。現在一般的な略称そのものの原典とは断定しない