はじめに
RSL Consulting は、AI(本書では主に文章、表、コードなどを生成する生成 AI)を前提に、相談を受け、調べ、考え、提案し、経験を知見に変えるための実践書です。
本書は、コンサルティングの用語やフレームワークを暗記するための本ではありません。目的は、何を決めるために、どの情報を集め、どの道具を使い、どこからは人が判断するのかを見えるようにすることです。
AI は本書の独立した章ではありません。仮説を広げる、調査を助ける、インタビュー記録を整理する、提案書を磨く、過去の案件を探す。そうした各工程の中で、AI をどう使い、どこを人が確認するかを扱います。
学習目標
本書を使うことで、次の状態を目指します。
- 相談内容を、意思決定に使える問いへ変えられる。
- 何を決めるために、どの情報やデータが必要か説明できる。
- 3C(顧客・競合・自社を見る枠組み)、SWOT(強み・弱み・機会・脅威を見る枠組み)、財務、インタビュー、実験などを、目的に応じて使い分けられる。
- AI の出力をそのまま信じず、出典、推論、情報管理を確認できる。
- 案件の成功や失敗を、次の案件で使える知見として残せる。
対象読者
本書は、次のような人を想定しています。
- AI を使って調査や提案の仕事を速くしたい人
- 新規事業、サービス改善、業務改善に関わる人
- コンサルティングの基本的な考え方を、自分の実務に接続したい人
- フレームワークを知っているだけでなく、いつ使い、いつ使わないかを判断したい人
- 案件で得た成功や失敗を、個人の経験で終わらせず、再利用できる知見にしたい人
- 外部から AI 新規事業や既存プロダクトの機能追加に入り、受注、検証、本番化、引継ぎまで担う人
すでにコンサルティングを専門にしている人にも、AI 時代の作業設計や知見化の観点で使える部分があります。一方で、本書は専門的な法務、会計、統計、業界固有知識を代替するものではありません。必要な場面では、専門家や一次情報に戻ります。
読み方
最初から順番に読んでもかまいません。ただし、案件で使うなら、困っている場所から読んでください。
コンサルティングの経験がまだ少ない人は、最初から全部を完璧に理解しようとしなくてかまいません。まず「相談を受けたら、何を決める話なのかをはっきりさせる」「判断に使う証拠を集める」「案を作り、捨てる理由も示す」「実行後に学びを残す」という流れをつかんでください。3C(顧客・競合・自社)、SWOT(強み・弱み・機会・脅威)、TAM(定義した市場の総需要機会)、LTV(顧客関係から得られる将来価値)などの略語は、暗記する対象ではなく、その場で何を見落とさないための道具として扱います。
| 困っていること | 読む場所 |
|---|---|
| 相談内容が広すぎる | 第1部 |
| 何を調べればよいか分からない | 第2部・第3部 |
| 市場や競合をどう見ればよいか分からない | 第4部 |
| 事業として成り立つか見たい | 第5部 |
| 解決策や価値提案を作りたい | 第6部 |
| 提案や合意形成で詰まっている | 第7部 |
| 案件の経験を次に残したい | 第8部 |
| 外部支援の範囲、契約、変更依頼を整理したい | 第28章・付録 K |
| AI 機能の品質を測り、公開可否を決めたい | 第29章・付録 I・J |
| 既存プロダクトへ AI 機能を追加したい | 第30章 |
| 受注から引継ぎまでの全体像を追いたい | 第31章 |
| AI の出力を確認したい | 付録 E |
| 出典や確認日を管理したい | 付録 G |
| すぐ使える型が欲しい | 付録 |
各章では、原則として次の観点を扱います。
- 何を決めるための考え方か
- どの場面で使うか
- 使わなくてよい場面はどこか
- AI をどう使えるか
- 人が確認し、判断すべきことは何か
- 実務で失敗しやすい点は何か
最短で始めるなら、第2章、第7章、第10章、第20章、第26章を読み、顧客共創から次期体制・予算までを担う場合は第25章を加えてください。AI 機能を本番へ出す責任を持つ場合は、第29章と第30章を必ず読みます。必要に応じて付録 C、D、E、F、H、I、J、K を使います。最初からすべてのテンプレートを埋める必要はありません。
外部から AI 案件へ入る人の最短ルート
本書を順番に読み終えるまで案件を止める必要はありません。今いる局面に合わせて、次の順で参照します。
| 局面 | 先に読む章 | その場で残すもの |
|---|---|---|
| 受注前 | 第2章、第3章、第28章 | 意思決定の問い、対象・対象外、前提、検収条件 |
| 最初の2週間 | 第10章、第25章 | 関係者地図、顧客証拠、決定日、情報管理条件 |
| モック前 | 第19〜21章、第29章 | 価値仮説、AIを使う理由、評価基準、停止条件 |
| 実装前 | 第24章、第29章、第30章 | データ・API・権限・運用の設計、段階公開計画 |
| 予算申請前 | 第18章、第22章、第25章 | 体制三案、段階予算、効果と費用、撤退条件 |
| 本番公開前 | 第29章、第30章、付録 J | 評価結果、監視、責任者、停止・復旧手順 |
| 支援終了前 | 第25〜28章 | 所有者、引継ぎ、アクセス終了、未解決事項 |
急ぐ場合も、受注前の境界、本番前の評価、終了前の引継ぎは省略しません。省略する作業があるなら、誰がどの危険を引き受けるかを記録します。
未経験から順に力を付けたい場合は、次の順で読むと、各章の役割がつながりやすくなります。
- 第1部で、相談を意思決定の問いへ変える
- 第2部で、考え方と論証の土台を作る
- 第3部で、調査、データ、インタビューを扱う
- 第4部で、顧客、競合、市場を見て、どこで戦うかを考える
- 第5部で、利益、現金、投資、成長の経済性を確認する
- 第6部と第7部で、解決策、提案、実行計画へ落とす
- 第8部で、案件から学びを残す
- 第9部で、外部支援として契約、AI評価、本番化、引継ぎを一続きに実践する
各章を読んだら、「この章は何を決めるための章か」「その判断に必要な証拠は何か」「人が責任を持って決める部分はどこか」を一つずつ言葉にしてください。章末の問いは、正解を当てる問題ではなく、自分の案件へ置き換えるための練習です。
章末の問いに取り組むときは、長いレポートを作る必要はありません。その章で判断に効いた観点を、自分の案件に当てはめて短く書きます。書く形は章ごとに変わります。比較が必要な章もあれば、問いを一文にするだけで十分な章もあります。書けない箇所がある場合は、理解不足ではなく、まだ前提や証拠が足りない合図として扱ってください。
本書の更新方針
RSL Consulting は、完成品として固定する本ではありません。Repeat Space Library の第一弾として、実際の案件、成功体験、失敗体験、調査メモ、提案の改善から更新していきます。
更新するときは、単なる成功談を増やすのではなく、次の形で残します。
- そのとき何を決めようとしていたか
- どの前提で判断したか
- 何がうまくいき、何がうまくいかなかったか
- 次に同じ状況ならどうするか
- どの条件では使ってはいけないか
経験は、そのままでは知見になりません。背景、制約、判断、結果、適用条件を残して初めて、次の案件で使えるようになります。本書は、そのための土台です。