付録 D インタビューガイドテンプレート
インタビューガイドは、質問を並べた台本ではありません。誰の、どの経験から、どの仮説を確かめ、どの意思決定へつなげるかを設計するものです。
関連する章は、第7章 意思決定に必要な情報を見極める、第10章 インタビューで未知を見つける、第11章 顧客と課題を捉える、付録 B 意思決定と必要データの対応表、付録 C 調査計画テンプレートです。
この付録の使い方
- まず目的、対象者、聞く順番、記録方法を決める。
- 必要に応じて、仮説と質問の対応、対象者条件、同席者、情報管理を詰める。
- 実施後、記録テンプレートと終了後レビューで、仮説への影響と次の判断を残す。
毎回すべてを埋める必要はありません。新規事業の初期探索では、具体的な経験と現在の解決方法を厚く聞きます。導入判断に近い検証では、判断基準、権限、費用、失敗条件を厚く聞きます。
30 分を目安に作る初版
インタビュー名・版・更新日時:
1. 今回の目的
意思決定:
確認したい仮説:
聞かなくてよいこと:
2. 対象者
対象者の条件:
今回の対象者:
対象者に期待する経験:
除外条件:
3. 聞く順番
導入:
最近の具体的な経験:
困った場面:
今の解決方法:
判断基準:
理想と不満:
最後の確認:
4. 記録と扱い
録音・文字起こし:
個人情報・機密:
AI への入力可否:
共有範囲:
5. 終了後
要約責任者:
確認する仮説:
次の判断(追加インタビュー・仮説修正・小さな実験・提案へ進む):
この 30 分は、インタビューガイドを作る時間の目安です。質問は、相手に答えさせたい結論から作りません。相手が実際に経験した状況、行動、判断、制約を聞き、こちらが後で仮説と照合します。
詳細版
1. インタビューの設計
背景:
意思決定:
調査計画との対応:
確認したい論点:
確認しない論点:
今回のインタビューで結論が変わる条件:
実施形式(対面・オンライン・電話・観察併用):
予定時間:
担当者:
同席者:
同席による影響:
インタビューは、意見を集めるためだけに使いません。相手の過去の行動、意思決定の場面、制約、代替手段を聞くことで、表面的なニーズと実際の行動の差を見ます。
クライアントや上司が同席する場合、対象者が言いにくいことを避ける可能性があります。同席者の役割を事前に決め、必要であれば個別インタビューを分けます。
2. 対象者の条件
母集団:
含める条件:
除外条件:
経験しているべき出来事:
立場・役割:
業種・規模・地域:
既存顧客・見込み顧客・非顧客:
募集経路:
謝礼・依頼文:
偏りやすい点:
「詳しそうな人」ではなく、確認したい経験を持つ人を対象にします。意思決定に影響する差がある場合は、対象者を分けます。例えば、導入者、利用者、承認者、反対者は同じ質問でも答えの意味が異なります。
応募してくれる人、話すことに慣れている人、協力的な人の意見は、対象全体より前向きに偏ることがあります。話してくれた人の意見を、そのまま市場全体の声として扱いません。
3. 仮説と質問の対応
| ID | 仮説・論点 | 聞きたい経験 | 質問 | 判断に使える回答の条件 | 深掘り | 禁止したい聞き方 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| Q1 |
一つの質問で複数の論点を確認しません。仮説を直接聞くのではなく、仮説に関係する過去の具体的な場面を聞きます。
実施前チェック
依頼文を送ったか:
目的と所要時間を伝えたか:
録音・文字起こし・AI 利用の同意を確認したか:
見せる資料と見せるタイミングを決めたか:
同席者の役割を決めたか:
聞かないことを決めたか:
記録担当を決めたか:
トラブル時の中止条件を決めたか:
コンセプトや画面を見せる場合は、最初に見せるか、経験を聞いた後に見せるかを決めます。課題探索では先に見せると発言が引っ張られやすいため、過去の経験を聞いた後に見せる方が適しています。
依頼文テンプレート
突然のご連絡失礼します。
現在、[テーマ] について、実際の経験を伺うためのインタビューを行っています。
目的は、サービスや提案への賛否を聞くことではなく、[対象となる場面] で実際に起きていることを理解することです。
所要時間は [時間] 分です。答えにくい質問は飛ばしていただいてかまいません。
事前準備は不要です。実際に経験された範囲でお話しいただければ十分です。
録音・文字起こし・AI による要約の利用有無、共有範囲、匿名化の扱いは事前に説明します。
ご協力いただける場合は、候補日時をいくつかいただけますでしょうか。
依頼文では、相手に売り込まないこと、評価を求めないこと、答えにくい質問を飛ばせることを明記します。
30 分で実施する場合の時間配分
| 時間 | 内容 | 目的 |
|---|---|---|
| 0-3 分 | 目的、同意、進め方 | 安心して具体を話せる状態を作る |
| 3-10 分 | 最近の具体的な経験 | 抽象論ではなく実際の行動を聞く |
| 10-18 分 | 困りごと、制約、現在の解決方法 | 課題の強さと代替手段を知る |
| 18-24 分 | 判断基準、導入条件、関係者 | 意思決定への接続を見る |
| 24-28 分 | 反応確認、見せる資料がある場合の確認 | 理解、違和感、使わない理由を知る |
| 28-30 分 | 追加確認、謝辞、次の扱い | 未確認事項と情報利用を確認する |
時間配分は固定ではありません。初期探索では経験と現在の解決方法を長くし、導入検証では判断基準と関係者を長くします。
質問の型
導入
今日は、サービスや提案の評価ではなく、実際の経験を教えてください。
答えにくい質問は飛ばしてかまいません。
録音・メモ・AI 文字起こしの扱いは、事前に説明した範囲に限定します。
導入では、相手を評価対象にしないことを伝えます。相手が「正しい答え」を探し始めると、実際の行動が見えにくくなります。
最近の具体的な経験
最後にその問題が起きたのはいつですか。
そのとき、何をしていましたか。
誰が関わっていましたか。
最初に何を確認しましたか。
何に時間がかかりましたか。
「普段どうしていますか」よりも、「最後に起きたとき」を聞きます。抽象的な意見より、具体的な記憶の方が行動に近いためです。
困りごとと制約
その場面で一番困ったことは何でしたか。
なぜ、それが困りましたか。
避けたかった失敗は何ですか。
使えなかった手段はありますか。
誰の承認や協力が必要でしたか。
困りごとは、不満の強さだけで判断しません。頻度、損失、責任、代替手段、解決に使える予算や権限も合わせて見ます。
現在の解決方法
今はどう対応していますか。
その方法を選んだ理由は何ですか。
何を我慢していますか。
別の方法を試したことはありますか。
やめた方法はありますか。
現在の解決方法は、競合や代替手段を知るための重要な情報です。「何も使っていない」場合でも、手作業、我慢、先送り、相談、Excel、既存システムなどの代替があります。
判断基準と購買・導入
新しい方法を選ぶなら、何を確認しますか。
誰が賛成・反対しそうですか。
導入できない理由があるとしたら何ですか。
費用、時間、信頼、安全のうち、何が最も効きますか。
過去に導入を決めたとき、何が決め手でしたか。
「欲しいですか」と聞くより、導入の条件と障害を聞きます。好意的な反応と、実際にお金・時間・権限を使う判断は別です。
反応を見たい場合
この説明を読んで、最初に分かりにくい点はどこですか。
自分の仕事に関係ありそうですか。
使うとしたら、どの場面ですか。
使わないとしたら、理由は何ですか。
他の人に説明するとしたら、どう説明しますか。
コンセプトを見せる場合も、褒めてもらうことを目的にしません。理解できたか、自分の場面に置けるか、使わない理由を言えるかを確認します。
聞いてはいけない質問
| 避ける質問 | 問題 | 置き換え |
|---|---|---|
| このサービスは欲しいですか | 相手が気を遣って肯定しやすい | 最後に似た問題をどう解決しましたか |
| いくらなら払いますか | 実際の予算・権限とずれやすい | 過去に似たものへいくら払いましたか |
| こういう課題がありますよね | 誘導になる | その場面で困ったことは何でしたか |
| 普段どうしていますか | 抽象化されやすい | 最後に起きたとき何をしましたか |
| 便利だと思いますか | 判断基準が分からない | 使うとしたらどの業務で、誰が許可しますか |
悪い質問は、相手の経験ではなく、こちらの仮説への同意を集めます。インタビューで欲しいのは、同意ではなく判断に使える具体です。
記録テンプレート
対象者 ID:
日時:
担当者:
録音・文字起こし:
同意範囲:
1. 対象者の背景
2. 具体的な経験
3. 現在の解決方法
4. 困りごと・制約
5. 判断基準
6. 仮説と合った点
7. 仮説と違った点
8. 引用候補(匿名化前提)
9. 観察した事実(観察併用時)
10. 発言の限界(記憶違い・後付け合理化・社会的望ましさ)
11. 証拠の強さ(意見・実体験・実際の行動・支払い/導入プロセス)
12. 適用できる範囲
13. 追加で確認すべきこと
14. 次の判断への影響
記録では、事実、相手の解釈、こちらの推論を分けます。「発言の限界」は相手を疑うためではなく、発言を使える範囲を誤らないための内部確認です。引用は便利ですが、個人や会社が特定される情報を残したまま使いません。
複数人の結果を統合するときは、共通点だけを残しません。立場、経験、規模、権限による差分を残します。少数意見でも、判断を変え得る反例は別枠で扱います。探索インタビューでは「何人中何人」を市場比率のように扱いません。一方で、対象条件をそろえた検証では、人数、条件、質問の一貫性を示したうえで傾向として扱います。
AI の使い方
| 工程 | AI に任せてよいこと | 人が確認すること | 禁止すること |
|---|---|---|---|
| 準備 | 仮説に対応する質問案を出す | 誘導質問になっていないか | 相手情報を無断入力する |
| 実施前 | 依頼文、説明文、同意文のたたき台 | 法務・情報管理・相手への説明 | 同意範囲を曖昧にする |
| 記録 | 文字起こし、要約、発話の分類 | 原文、話者、文脈 | 都合のよい要約だけ採用する |
| 分析 | 共通点、差、反例の抽出 | 少数意見と反対証拠 | 発言を市場全体へ一般化する |
| 共有 | 匿名化した要約の整形 | 機密、個人情報、引用範囲 | 個人が特定される形で共有する |
AI は、質問案や要約を速く作れます。ただし、AI が作った質問は誘導になりやすく、AI の要約は少数の違和感を丸めることがあります。判断に効く発言は、必ず原文へ戻って確認します。
AI に入力する前に、氏名、会社名、部署名、連絡先、個別の契約条件、特定できる固有の出来事を削るか、許可された環境だけで扱います。匿名化しても、少人数の組織や特殊な経歴では個人が推測できる場合があります。
終了後のレビュー
結論を変え得る発見はあったか:
仮説を強めた証拠:
仮説を弱めた証拠:
新しく出た論点:
対象者の偏り:
質問の失敗:
次回変える質問:
追加で会うべき対象者:
意思決定への影響:
対象者への追加確認:
引用・共有許可の確認:
次アクションと期限:
プレイブックへ残す学び:
インタビューは、終わった瞬間が一番学びを残しやすいタイミングです。成功した質問だけでなく、誘導してしまった質問、曖昧な回答しか得られなかった質問、対象者選定の失敗も記録します。
AI にガイドをレビューさせる
以下はインタビューガイドです。質問を代作するのではなく、設計の欠落を点検してください。
1. 意思決定、仮説、対象者条件が具体的か
2. 仮説を直接聞く誘導質問になっていないか
3. 最近の具体的な経験、行動、制約を聞けているか
4. 現在の解決方法と代替手段を聞けているか
5. 判断基準、関係者、導入できない理由を聞けているか
6. 見せる資料のタイミングが目的に合っているか
7. 録音、文字起こし、AI 利用、共有範囲の同意が明確か
8. 対象者や募集経路の偏りを記録できるか
9. 発言の強さ、適用範囲、反例を残せるか
10. 終了後の次アクションと期限が決まるか